エンジニアポエムの歴史

導入

ソフトウェアエンジニア界隈で,お気持ち表明で書いた文章のことを「ポエム」って呼ぶ風潮っていつから始まったんだ? 全然ポエムじゃない気がして腑に落ちない.

 

詩からポエムへ

そもそも,辞書的な意味だと本来は「詩」を意味する「ポエム」が,ネガティブなイメージを含意するようになったのはいつからだろうか.

 

コラムニスト小田嶋隆の本「ポエムに万歳!」では次のように書かれている.

日本で「ポエム」がネガティブな意味で用いられ始めた正確な起源は分からないが,普及したのは,2ちゃんねるでの書き込みが大きな影響を占めていると考えられる.当時,中学時代に自作の詩やら歌詞やらを書き留めた黒歴史ノートを公開するノリがあったらしい.その時から,「ポエム」・「ポエマー」・「ポエミー」のような表現が厨二病的なイメージや痛々しい表現を指す言葉として広まった.英語では「詩人」を意味する単語は,「poet」であり,「ポエマー」ではない.この事実は,この表現が日本語特有のものであることを示している.

また,小田嶋隆は,「詩」と「ポエム」を異なるものとして認識しており,ポエムの定義について次のように述べている.

ポエムは、書き手が、詩であれ、散文であれ、日記であれ、手紙であれ、とにかく何かを書こうとして、その「何か」になりきれなかったところのものだ。

小田嶋隆の記述からは,「ポエム」とは「文章の未完成さ」を表す言葉だと読み取れる.その背景には,インターネットの普及によって,それまで人の目に触れることのなかった「未完成」な文章が溢れるようになったことがある.さらに2ちゃんねるやX(Twitter)での文化によって,「ポエム」は次第に,「厨二病」や「痛々しい」文章といった意味を含む言葉になっていった.自分が中学生・高校生くらいの頃には,すっかりこの意味での「ポエム」が定着していたように思う.夜中に投稿したツイートを朝見返して,「ポエミーな文章」だなと恥ずかしくなり削除していた記憶がある.

 

しかし,エンジニアが使う「ポエム」は,上記の意味での「ポエム」ともずれてしまっているような気がする.

ポエムからエンジニアポエムへ

「ポエム」の定義を「未完成な文章」だとするとエンジニアが言う「ポエム」も「ポエム」だが,「ポエム」が含意するネガティブさの要素が異なる.2ちゃんねるやX(Twitter)に投稿される文章やツイートに対しての「ポエム」には,先述したように「厨二病さ」や「痛々しさ」といったイメージが含まれている.それに対して,エンジニアが言う「ポエム」には,「個人的な主張」といったイメージが強く含まれているように感じる.他にもエンジニア独自の表現で,「個人的な主張」をアピールする言葉には,「お気持ち」といったものがある.

一般的に,技術的な記事などの文章は,客観的で論理的に説明する必要があるため,そうではない主観的な文章に対してネガティブなイメージを抱くことがあるのかもしれない.このことから「ポエム」が元々持っていた「文章に対するネガティブなイメージ」が,ネガティブな側面はそのままに,その意味が変化したのだと考えられる.

つまり,エンジニア界隈では「ポエム」という言葉の再解釈が起きているのではないだろうか.

まとめ

ということで,ソフトウェアエンジニア界隈の人から見たらこの文章も「ポエム」だと言われることでしょう.終わり.